言峰、綺礼。
ああ。お互い、かろうじて生き延びているようだな。衛宮士郎。
これを外に出しても、お前の願いは叶わない。
叶うとも。私の目的はただ一つ、この呪いを誕生させる事のみだ。
なんで、なんでそこまで守る…?アレは、悪そのものだ!
まだ悪ではない。善でもない。
人間はゼロから何が正しいかを学ぶ。始まりはゼロ 。
そこには善悪もなく、ただこの世に在る事を許されたという事実しかない。
責任があるとしたら、それはその人間を育んだ環境と、自らを育てた『自己』だけだろう。
孵りたがっている命ならば、羽化させてやるのが愛だ。
何が愛だ。
私にとってはだ、衛宮士郎。お前が他人の幸福に至福を感じるように、私は、他人の不幸に至福を感じるだけだ。
厄介な身体だな、打つ方が命懸けとは。
そもそも、人を殺すことが悪だと、間桐桜を守ろうという、お前が。
人間とはそういうものだ。悪人が戯れに見せる善意、聖人が気まぐれに犯す悪行。
この矛盾こそが、人たらしめる。生きるということは、善悪両方を孕むもの。
だけど、こいつは初めから殺すためだけのものだ────!
そうだ…!だが本人がそれをどう思うかは、まだ分からない!
自らを悪と嘆くか、善しとするか。そのように望まれたものが自らの機能に疑いを持たぬのであれば、悪ではない!
奴が産まれれば望まれた通りに殺し尽くすだろう。そしてただ一人残ったモノが、果たして自身を許せるのか。私は、それが知りたい。
そんな事のために、お前は────!
そうだ。それが私の目的だ、衛宮士郎。自身に還る望みを持たぬお前と対極に位置する。だが、同質の願望だ!
ああ、そうか。俺達は、共に自身を罪人と思い、それを振り払う為に一つの生き方を貫き続けた。
退かないよな、そりゃ。
告白すると、八つ当たりでもある。私はお前達を羨んでいる。
そうか、無駄な時間を使わせたな。
構わん、時間が無いのはお互い様だ。
単純に、時間の差が出るとはな。
お前が最後のマスターだ。その責務を果たすがいい。