あの男なら、こうなる前に間桐桜を殺していただろう。ヤツは正義とやらの為に、人間らしい感情を切り捨てた男だった。
衛宮切嗣の生き方は、私には不快だった。奴ははじめからあったものを切り捨て、私には切り捨てられるものがなかった。結果は同じながら、その過程はあまりにも違った。その違いこそ、決定的だった。
切り捨てるなら、はじめから持たねばよい。だと言うのに奴は持ち続けた。切り捨てたあとでさえ拾い上げた。
まったく、幸せな男だよ。
切嗣が、幸せ…?
己を愛し、隣人を愛し、罪を許し罰を認め、健やかに命を育む。
おまえたちが幸福と呼ぶものでは、私に喜びを与えなかった。それだけの話だ。
なんであの時、桜を助けてくれたんだ?
人は死ぬものだ。死にゆくものが間桐桜だけならば、私もあそこまで手は尽くさなかった。
私は、間桐桜の中にある闇の誕生を祝福する。
あの影を…?アレは、人を殺すものだぞ。
しかしまだ産まれてはいない。産まれてからであれば罪も罰も与えられるべきだが、産まれるなとは言えまい。
それとも、犯罪者の息子は産まれる前から犯罪者だと?故に殺してしまえと?
私からも一つ聞こう。間桐桜、彼女は既に人食いであることに変わりはない。それでもお前は、擁護するというのか?
彼女は多くの人間を殺した。そのような自分を容認できるとも思えん。ならば殺してやった方が幸せなのではないか?奪われた者たちへの贖罪にもなる。
けど、それは償いじゃない。
そうか。衛宮切嗣の跡は、継がないということだな。